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名古屋高等裁判所 昭和44年(ネ)696号 判決 1977年3月31日

控訴人(第一審被告(反訴原告)附帯被控訴人 以下、第一審被告という) 伊藤鐘一

右訴訟代理人弁護士 高木英男

同 早川淳

同 乾てい子

右高木英男訴訟復代理人弁護士 伊藤敏男

同 伊藤和尚

同 水野敏明

控訴人(第一審被告(反訴原告)補助参加人附帯被控訴人 以下、参加人という)竹村寧洪こと 権寧洪

右訴訟代理人弁護士 伊藤静男

同 郷成文

右伊藤静男訴訟復代理人弁護士 片山主水

同 財前弘子

右郷成文訴訟復代理人弁護士 成瀬欽哉

被控訴人(第一審原告(反訴被告)附帯控訴人 以下、第一審原告という) 大森勇

被控訴人(第一審原告(反訴被告)附帯控訴人 以下、第一審原告という) 奥田清次郎

右両名訴訟代理人弁護士 林武雄

主文

一  附帯控訴に基づき、原判決主文第一ないし三項を次のとおり変更する。

(一)  第一審被告は第一審原告らに対し、それぞれ金一、五〇六万六、〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一〇月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  第一審被告は第一審原告らに対し、別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物につき昭和三一年二月二七日売買を原因とする持分各二分の一ずつの所有権移転登記手続をせよ。

(三)  第一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  第一審被告および参加人の本件控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟の総費用は、参加によって生じたものは参加人の負担とし、その余は全部控訴人の負担とする。

四  本判決は右一の(一)につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  第一審被告および参加人

(一)  控訴として、

1 原判決中控訴人敗訴部分を取消す(控訴状「控訴の趣旨」一、に「原判決主文第一、二、五項は取消す。」とあるのは、「原判決主文第一、二、四項を取消す。」の明白な誤りと認める)

2 被控訴人らの請求を棄却する。

3 第一審原告らは第一審被告に対し別紙目録六記載の建物を収去して同目録五記載の土地を明渡し、かつ、連帯して、昭和三六年三月二六日から右明渡しずみにいたるまで一か月金八、二二七円八〇銭の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

(二)  附帯控訴に対し、

本件附帯控訴を棄却する。

当審における拡張請求部分を棄却する。との判決。

二  第一審原告ら

(一)  控訴に対し、

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

(二)  附帯控訴として、

当審において請求を拡張

(主位的請求)

1 原判決を次のとおり変更する。

(1) 第一審被告は第一審原告らに対し、それぞれ金一、七四六万六、〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一〇月二日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 第一審被告は第一審原告らに対し、別紙目録一、二記載の土地および同目録三、四記載の建物につき、昭和三一年二月下旬の売買を原因とする持分各二分の一ずつの所有権移転登記手続をせよ。

(3) 第一審被告の反訴請求を棄却する。

(4) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(5) 右(1)につき仮執行の宣言

(予備的請求)

2 原判決を次のとおり変更する。

(1) 第一審被告は第一審原告大森勇に対し、金三、四九三万二、〇〇〇円およびこれに対する昭和四六年五月二日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 第一審被告は第一審原告大森勇に対し、別紙目録一、二記載の土地および同目録三、四記載の建物につき、昭和三一年二月下旬の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(3) 第一審被告の反訴請求を棄却する。

(4) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(5) 右(1)につき仮執行の宣言

《以下事実省略》

理由

第一  本訴について

一  本件土地建物の所有関係、仮換地・換地関係について

《証拠省略》によると、第一審原告らが請求の原因一で主張するとおり、第一審被告が第一審原告ら主張の土地建物を所有していたが、名古屋市八熊土地区画整理組合の土地区画整理事業により、その主張のとおりの仮換地指定を受け、昭和三五年二月九日区画整理事業完了に基づき、同年七月七日別紙目録一、二、五のとおり登記され、建物についてはその後別紙目録三、四のとおり分筆登記がなされたことが認められる。

ところで、第一審被告は、右土地の仮換地関係について、仮換地八幡本通1×33B一一七坪五合四勺に対応する従前の土地は中川区八熊町二女子境二八八〇番および同所二八八四番の三であり、従前の土地中川区八熊町字二女子境二八八〇番の九は同所二八八四番の二とともに仮換地・八幡本通1×33の9A一一二坪三二を指定されたもので、右仮換地関係は昭和二七年一二月三日旧二八八〇番等の土地の分合筆がなされた頃仮換地指定変更によってなされたもので、その後指定の変更はない旨主張するので、この点について検討する。

まず、《証拠省略》によれば、昭和二八年一月六日土地合筆により、二八八〇番宅地三九八坪六勺となり、同日二八八〇番、同番の一ないし九に分筆され、その位置関係は第一審被告主張のとおり(すなわち、乙第一三号証―名古屋市中川区役所備付けの地籍図写のとおり)であることが認められる。つまり、これによると、別紙図面Bの土地は二八八〇番宅地、Aの土地は二八八〇番の九宅地となっていることが認められる。

しかしながら、その頃、第一審被告の主張するように、従前の土地二八八〇番、二八八四番の三の仮換地として中川区八幡本通1×33B、従前の土地二八八〇番の九、二八八四番の二の仮換地として中川区八幡本通1×33の9Aが指定されたことを認めるに足る明確な証拠はない。

弁論の全趣旨により原本の存在および成立の認められる乙第八号証の三(名古屋市中川区役所の固定資産税に関する台帳の写真)によれば、仮換地三三Aに対応する旧地として二八八〇番宅地一〇八坪五七、二八八四番畑一五歩とあり、かつ、昭和三〇年三月三一日組合長通知により同年三月三一日本番にAを付し、本番BCDEFGHIJに分筆、九三坪三二は本番のBへ転記との記載があることが認められ、これは第一審原告らの主張(すなわち、前記認定事実)に符合するものである。

第一審被告は、甲第九号証(特別固定資産土地異動申告書)について、これは第一審被告が仮換地指定変更に伴い、中川区役所税務課職員に書いて貰った異動申告書にそのまま当時の区画整理組合長の承認をうけ、同区役所に提出したところ、記載に誤りがあって返還されその手もとにあったものであると主張し、当審証人伊藤善治の証言(第二回)は右主張に副うものであるが、右証言は明確な裏付けを欠き措信し難く、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

なお、成立に争いのない乙第九号証(区画整理組合作成の図面)によると、別紙図面Bの位置を(B)とし

三三 二女子境二八八〇

〃  二八八四の三

別紙図面Aの位置を(A)とし

三三の九 二女子境二八八〇の九

〃  二八八四の二

の記載のあることが認められるが、右記載はいつ当時のものか明らかでなく、後記のような第一審原告ら主張の仮換地指定変更がなされた後の時点のものであることも考えられ、第一審被告の主張を認めるに足る明確な資料とはなし難い。当審証人伊藤善治の証言(第二回)中右認定に反する部分は措信しない。

右のほか、第一審被告の右主張を認めるに足る証拠はない。

二  第一審原告ら主張の売買契約の成否について原判決理由第一の二を引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

(一)  原判決一一枚目表九行目から一一行目までの「証人伊藤善治(一部)……原告らは、昭和三一年三月初旬、」とある部分を次のとおり改める。

「《証拠省略》によると、第一審原告らは昭和三一年二月二七日頃」と改める。

(二)  原判決一一枚目裏一行目の「建設の目的をもって被告から」とあるのを、「建設の目的をもって、第一審原告大森勇は第一審原告奥田清次郎をも代理して、第一審被告から、持分各二分の一の割合で」と改める。

(三)  原判決一一枚目裏六行目の「被告本人尋問の結果、証人伊藤善治の証言部分」とあるのを、「原審および当審における第一審被告本人尋問の結果、原審および当審(第一回)における証人伊藤善治の証言部分、当審証人伊藤花子の証言、成立に争いのない甲第二一号証」と改める。

(四)  原判決一二枚目表一、二行目に「原告大森(一、二回)、同奥田、被告本人の各供述」とあるのを、「前掲丙第二号証の一、二、原審(第一、二回)および当審における第一審原告大森勇、原審(第一、二回)および当審(第一、二回)における第一審原告奥田清次郎、原審および当審における第一審被告各本人尋問の結果」と改める。

(五)  原判決一二枚目裏八、九行目に「証人高木正員の証言、原告奥田(一、二回)、同大森(一回)本人の各供述」とあるのを、「前掲丙第二号証の一、二、原審証人高木正員の証言、原審(第一、二回)および当審(第一回)における第一審原告奥田清次郎、原審(第一回)および当審における第一審原告大森勇各本人尋問の結果」と改める。

(六)  原判決一三枚目裏二、三行目に「同大森幸子の各証言、原告大森本人の供述(一回)」とあるのを、「原審および当審における証人大森幸子の各証言、原審(第一回)および当審における第一審原告大森勇本人尋問の結果、前掲丙第二号証の一、二」と改める。

(七)  原判決一三枚目裏一〇、一一行目に「証人伊藤善治、同大森幸子、同高木正員の各証言及び原告大森本人の供述(一回)によると」とあるのを、「前掲丙第二号証の一、二、原審および当審(第一回)における証人伊藤善治、原審証人大森幸子、同高木正員の各証言および原審(第一回)および当審における第一審原告大森勇本人尋問の結果によると」と改める。

(八)  原判決一五枚目表一行目の「原告大森本人の供述(二回)」とあるのを、「原審(第二回)および当審における第一審原告大森勇本人尋問の結果」と改める。

(九)  右売買契約当時、別紙目録一、二、五記載の各土地は区画整理事業施行区域内にあり、仮換地に指定された土地であったので、第一審原告らは第一審被告から、右仮換地を、その現地につき位置を指定して、同地上に市場(マーケット)店舗建築の目的で買受けたものであり、右契約の際甲第九号証の交付を受け、これによって売買物件特定の資料とした。

三  第一審原告らが参加人を別紙目録五記載の土地から立退かせた事実について

原判決理由第一の三を引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

(一)  原判決一五枚目裏三、四行目に「原告奥田、同大森本人の供述(各一回)、同供述により」とあるのを、「前掲丙第二号証の一、二、原審(第一回)および当審における第一審原告大森勇本人尋問の結果、原審(第一回)および当審(第一回)における第一審原告奥田清次郎各本人尋問の結果、右各本人尋問の結果により」と改める。

四  錯誤による無効の主張について

参加人は、右売買契約は要素の錯誤により無効である旨主張するが、本件全証拠によるも、参加人が錯誤に陥った事実はこれを認めるに足る証拠はない。したがって、右主張は採用し難い。

五  別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物に対する第一審原告らの所有権移転登記請求権について

(一)  第一審原告大森勇が右各土地建物につき第一審被告に対し所有権移転請求権を有し、第一審原告大森勇が右土地建物につき、処分禁止の仮処分を執行し、かつ、その旨登記簿に記載されていることについては、原判決理由第一の四を引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。

1 原判決一五枚目裏七行目に「目録一ないし五の」とあるのを、「別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物につき持分各二分の一ずつの」と改め、同八行目の「ものである。」の次に、「したがって、右売買は、右土地上に市場(マーケット)店舗を建築する目的で、仮換地の現地につきその範囲を指定してなされたものであるから、第一審原告らは第一審被告に対し、移転登記については、仮換地である場合には仮換地に対応する従前の土地につき、また、区画整理事業完了により換地処分がなされた場合にはそれに対応する土地につき、所有権移転登記請求権を有するものである。ところで、」と付加する。

2 同一五枚目裏一一行目に「右参加人の供述」とあるのを、「原審証人竹村こと権寧洪の証言、当審における第一審被告および参加人各本人尋問の結果」と改める。

3 参加人は、前記土地建物につき第一審原告大森勇のためになされた処分禁止の仮処分は無効である旨主張するが、前記売買契約における第一審原告らの持分が各二分の一であることは前記認定のとおりであるが、そのために右仮処分が無効であるとは解されないから、参加人の右主張は採用し難い。したがって、右仮処分が有効である以上、第一審被告の参加人に対する譲渡行為が第一審原告大森勇に対抗できないことは明らかである。

(二)  なお、第一審原告両名に関しては、別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物につき、代金四八〇万円の支払と引換えに持分二分の一ずつの所有権移転登記手続を求め得るものであるところ、参加人が前記仮処分執行後の昭和三八年八月二二日裁判上の和解において第一審被告からこれを買受け、同三九年五月一五日所有権移転登記を経由したことについては、原判決理由第一の四を引用する。

そこで、前記各認定事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1 第一審被告はかねて春山半三郎に別紙目録三、四記載の各建物と別紙目録五記載の土地を賃貸し、春山は右土地上に工場を建築所有していた。ところが、春山は金融業者の今川一夫から融資をうけ、右工場を担保に供していたが、返済ができなくなり、右工場は今川に所有権が移っていた。

2 春山は刑事事件を犯して不在となり、家族は生活に困って参加人から金を借り、右土地建物を貸主の第一審被告に無断で参加人に転貸し、参加人は昭和二七年四月頃から、別紙目録三、四記載の各建物にその使用人を入居させ、別紙目録五記載の土地上の工場において鉄工業を行っていた。そして、右土地建物の賃料は、春山が長い間不払いのまま滞っており、参加人は第一審被告に直接賃借を申し出るとともに賃料の受領を求めたが、第一審被告は参加人に賃貸する意思はなく、参加人に対し明渡の調停を申し立て、回を重ねたが、成立にいたらず、参加人は第一審被告に売却を申し出て交渉がなされたが、代金の点で意見が合わず打切られた。このような経過であったため、第一審被告はその処置について困り果てていた。そのような折柄、第一審原告らから買受の申出がなされ、前記契約締結になったのであった。

3 右売買契約がなされるや、早速第一審原告奥田が前記のとおり参加人と立退交渉をし、立退料六〇万円を支払って右工場から立退かせたのであるが、参加人は第一審原告らが第一審被告から本件土地建物を買受け、そこへ市場を建築することを十分知ったうえで立退に応じたのであった。第一審被告は右立退の直後第一審原告らに対し解除通知を発したため本件紛争を生じたのであるが、参加人は右紛争に巧みにつけいり、双方に対してそれぞれ個別的に買受けを申込み、漁夫の利を図ろうとした。

4 その後、参加人は村田道男とともにまたもや別紙目録五記載の土地を無断で占拠し、別紙目録三、四記載の各建物を勝手に改造して人に貸したりして不法占有を続けた。そこで、第一審原告大森は前記のように昭和三三年三月七日参加人および村田道男に対し、右土地につき、名古屋地方裁判所に仮処分申請をして、執行吏保管(ただし、現状不変更を条件として被申請人の使用を許された)、建築等そのほか占有移転禁止を内容とする仮処分決定を得てその執行をした。その前に、第一審原告大森は昭和三三年二月二五日第一審被告に対する別紙目録一、二、五記載の各土地についての執行吏保管(ただし、現状不変更を条件として被申請人の使用を許す)、建築等その他占有移転禁止、処分禁止の仮処分申請をしてその決定を得て、その頃その執行をし、さらに同年三月八日別紙目録三、四記載の各建物(ただし、当時右各建物は分筆登記前であったため、家屋番号第五の四の一棟の建物として)について前様第一審被告に対する処分禁止、増改築等禁止の仮処分申請をしてその決定を得て、その頃その執行をした。そして、同年三月三一日、第一審原告らは第一審被告に対し本訴を提起した。参加人は右仮処分の事実によって、本件土地建物が第一審原告らの買受けたものであることを一層はっきりと了知し得たものであり、参加人は右仮処分後も再三にわたって第一審原告らに対し右土地の譲受けを申し出ていた。

5 そのうち、第一審被告は昭和三三年七月一〇日参加人ほか三名を被告として前記建物明渡の訴訟(名古屋地方裁判所昭和三三年(ワ)第一二二一号事件)を提起した。

6 その後、第一審原告らと第一審被告との間には、本訴が係属中であったところ、第一審被告は別紙目録五記載の土地について処分禁止の仮処分がなされ、その従前の土地である名古屋市中川区八熊町字二女子境二八八〇番の九宅地九三坪三合二勺の登記簿に右仮処分の記載がなされていたのを、なんらこれを変更すべき理由がないのに、右仮処分を無効ならしめる目的で、区画整理組合に対し仮換地指定変更の申出をし、同組合は右申出に基づき、右仮換地(八幡本通1×33B)の従前の土地を同所二八八〇番宅地一〇八坪五合七勺と二八八四番の三畑九歩とし、同所二八八〇番の九宅地九三坪三合二勺には同所二八八四番の二畑六歩とともにその仮換地として八幡本通1×33A宅地一一二坪三合二勺(別紙図面Aの土地)を指定する旨仮換地指定変更をし、昭和三五年三月九日区画整理事業完了を原因として、同年七月七日、八幡本通1×33Aを名古屋市中川区八幡本通一丁目三三番の九宅地一一二坪三合二勺に、八幡本通1×33Bを同所三三番宅地一一七坪五合四勺(別紙目録五記載の土地)にと各登記をした。そのため、別紙目録五記載の土地に対応する従前の土地中川区八熊町字二女子境二八八〇番の九になされた処分禁止の効力は右目録五記載の土地(別紙図面Bの土地)に及ばないことになった。

7 右の結果、第一審被告は参加人らとの間の前記建物明渡請求訴訟において、昭和三八年八月二二日裁判上の和解をなし、参加人は第一審被告から別紙目録五記載の土地を含め第一審原告らと第一審被告の間で係争中の別紙目録一ないし五記載の土地建物全部を、代金一、二八四万四、五九〇円で買受け、代金の支払いは昭和三八年八月末日から同三九年四月末日まで四回に分割して支払うこととし、かつ、参加人は第一審原告らと第一審被告との間の本件訴訟を第一審被告の承継人として引受け、その解決をはかり、第一審被告はこれに協力することを和解条項として取り決めた。

8 そして、参加人は右代金の分割支払いを終った後、昭和三九年五月一五日、別紙目録一ないし五記載の土地建物につき所有権移転登記を経由した。なお、その前に、参加人は昭和三八年三月七日第一審被告に対し、別紙目録一、二、五記載の各土地につき処分禁止の仮処分をし、さらに、同年八月二九日右各土地につき名古屋地方裁判所に申請して仮登記仮処分命令を得、所有権移転仮登記を経由している。これは明らかに第一審被告が第一審原告らに対し売買による所有権移転登記をするのを阻止せんとする意図をもってなしたものに他ならない。

9 さらに、参加人は昭和三九年五月一五日別紙目録五記載の土地を韓正基に売渡し(代金は三・三平方メートル当たり一二万円の割合)、同年五月二一日所有権移転登記を経由した。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

第一審被告は、参加人との間の右売買については、参加人に売渡す前に第一審原告らに対し、仮処分の対象物件が間違っていること、および別紙目録五記載の土地を売却することを伝え、了解を受けたのであり、第一審原告らは右のことを十分承知していたと主張するが、右主張を認めるに足る証拠はない。もっとも、《証拠省略》を総合すると、参加人は右売買の前に第一審原告奥田に対し、仮処分が間違ってかかっており、更地(すなわち、仮処分がかかっていないこと)だから自分が買うがよいかと聞いたところ、第一審原告奥田はそのように仮処分が間違ってかかっているとか、はずされている(参加人のいう更地)ということはとうていあり得ないことであって、間違いなく仮処分がなされているものと考えていたので(第一審原告らは前記仮換地指定変更がなされ、仮処分がはずされる結果となったことを知ったのは、第一審被告と参加人の売買がなされた後、参加人が買ったといい出したことから調査して初めて判ったことである)、参加人のいうようなことは全くあり得ないこととして、「更地なら買ってもいいだろう。」といったまでのことであり、売買に了解を与えたり、自ら買ったことを否定する趣旨でないことは明らかである。したがって、第一審被告の右主張は採用し難い。

以上認定の事実によれば、参加人は別紙目録一ないし四記載の土地建物に関する第一審原被告間の売買については、単なる悪意者に止まらず、その所為は著しく信義に反し第一審原告らに損害を与える目的をもってその所有権移転登記を妨げたものであって、登記の欠缺を主張できない背信的悪意者に当たるというべきである。

この点に関し、参加人は、第一審被告との売買の話は、第一審原告らと第一審被告との間の売買交渉の以前にすでに存在したものであり、その後第一審被告から建物明渡訴訟を提起され、約五年にわたる訴訟のあげく、昭和三八年八月二二日和解成立し、参加人において多額の金員をもって買取り、一挙に紛争を解決したものであって、第一審原告らこそ口約束だけで買受けを主張し、参加人の完全な利用を妨害しているのであって、参加人は登記の欠缺を主張できない背信的悪意者に当たらないとの趣旨の主張をなすもののごとくであるが、前記のような事実(特に、参加人が、第一審原告らが本件土地建物を購入するのは、右土地全部を使用して市場を経営するためであることを了知のうえで、昭和三一年一〇月一八日に別紙目録五記載の土地上にある工場から立退料六〇万円を受領のうえ退去したのにかかわらず、右市場の敷地の一部となるべき別紙目録一ないし四記載の土地建物につき所有権移転登記をなして、第一審原告らの右土地建物の取得を妨害していること)が認められる以上、右和解は第一審被告との間の紛争を解決するためというより第一審被告と共謀して、第一審原告らに損害を加えようとする著しく信義に反する所為であったといわざるを得ない。

したがって、第一審被告が参加人に対してなした別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物の譲渡は第一審原告らに対抗し得ないものである(第一審原告大森については、前記(一)の理由によっても対抗し得ないものである)。

(三)  そうすると、第一審被告は第一審原告らに対し別紙目録一、二記載の各土地および同目録三、四記載の各建物につき昭和三一年二月二七日売買を原因とする持分各二分の一ずつの所有権移転登記手続をする義務がある。

六  別紙目録五記載の土地の売買契約に関する履行不能による損害賠償請求について

(一)  第一審被告は前記のとおり別紙目録五記載の土地につき、仮換地のすりかえ申請によって、本件売買契約の効力を右土地に及ばなくさせたものである。そして、右仮換地のすりかえ申請を基としてなされた本換地処分が適法有効であることは否定できないのであるが、右本換地処分にいたるまでの第一審被告の右行動全部を総合的に考察すると、これは前記売買契約を故意に履行不能に陥らしめた違法な所為と判断せざるを得ない。したがって、第一審被告は第一審原告らに対し、右履行不能によって被らしめた損害を賠償する義務がある。

(二)  次に、損害額について

右のように、第一審被告は悪意をもって故意に売買契約の一部を履行不能にして買主に損害を与える目的をもって、不法な積極的作為をなし、それにより債務不履行を敢えてしたものであるから、その賠償すべき損害の範囲は、その当時予見し得たあらゆる事情を考慮に容れた額であるべきである。そして、その当時においては、第一審原告らが右土地を利用して市場(マーケット)営業を営むこと、そしてその市場経営は売買契約が履行されれば当然少なくとも本件口頭弁論終結時まで継続されるであろうこと、当時地価が上昇の傾向にあったことを十分了知し得たというべく、結局口頭弁論終結時にいたるまでの間で最も高騰した土地の価格をもって損害額を算定するのが相当である。

そこで、《証拠省略》によると、右土地の昭和五〇年一〇月一日現在の価格は一平方メートル当たり八万九、九〇〇円の割合により三、四九三万二、〇〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、第一審原告らが本訴において右損害金と売買代金四八〇万円とを相殺する意思表示をしたことは明らかであるから、第一審原告らの損害金元本は相殺適状であった昭和五〇年一〇月一日にさかのぼって右売買代金と対当額で相殺されたものであるから、三、〇一三万二、〇〇〇円ということになる。

そうすると、第一審被告は第一審原告らに対しそれぞれ損害賠償金一、五〇六万六、〇〇〇円およびこれに対する期限後の昭和五〇年一〇月二日から支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

七  以上により、第一審原告らの本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。

第二  反訴について

原判決理由第二を引用する。

第三  以上の次第で、右と一部結論を異にする原判決主文第一、二項は附帯控訴に基づき変更し、第一審被告および参加人の本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九四条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 植村秀三 裁判官 西川豊長 裁判官寺本栄一は職務代行期間終了につき署名押印することができない。裁判長裁判官 植村秀三)

<以下省略>

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